大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)757号 判決 1965年7月13日
理由
一、被控訴人が控訴人に対し、(1)昭和三三年七月一日金一八三、〇〇〇円を弁済期同三四年二月末日と定め、(2)同三三年一二月一日金六〇、〇〇〇円を弁済期同三四年一月末日と定め、(3)同三四年一〇月三一日金一〇〇、〇〇〇円を弁済期同年一二月末日と定めて、それぞれ貸与えたことは当事者間に争がない。そして、《証拠》 を綜合すれば、右貸付金の利息は月四分の約定であつたことを認めることができ、この認定に反する原審の控訴本人尋問の結果は、前記認定のための各証拠に照らして措信しない。
被控訴人は、昭和三四年一二月金六七、〇〇〇円を弁済期昭和三五年一二月末日、利息及び弁済期後の損害金を月四分と定めて、控訴人に貸与えたと主張するが、この事実を認めるに足る証拠はない。
二、控訴人主張の弁済の抗弁について判断する。
(一) 控訴人は前記一(1)記載の一八三、〇〇〇円の借受金について、昭和三四年一月二七日金二五、〇〇〇円、同年五月一三日金一〇、〇〇〇円を元金の内入として弁済したと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
(二) 控訴人は前記一(1)(2)(3)の元金に対する弁済として、昭和三五年一二月二七日金三〇万円を弁済したと主張するが、この弁済が元金に対してなされたこと、及び昭和三五年一二月二七日なされたことを認めるに足る証拠はない。しかし、被控訴人は右事実中、昭和三五年一二月末日金三〇万円の弁済がなされたことを認めているので、この範囲において、被控訴人は控訴人の抗弁事実を自白したものである。右認定のとおり三〇万円が元金に対して弁済されたことが認められないばかりか、本件においては、三〇万円の弁済にあたり、控訴人が充当すべき債務を指定したこと及び弁済受領者たる被控訴人が弁済受領のときにおいて弁済の充当をしたことを認めるに足る証拠はない。従つて、本件においては、三〇万円は昭和三五年一二月三一日現在において前記一(1)(2)(3)の貸付金について法定充当せらるべきである。そして、弁済期後の遅延損害金について特約のあつたことの認められない本件においては、遅延損害金は利息と同率と推定すべきであり、法定充当の場合に充当されるべき利息、遅延損害金は利息制限法によつて許容される範囲のものに限られると解すべきである。
(三) ところで、前記一(1)の貸金について利息制限法によつて許容される利息及び遅延損害金(右認定のとおり本件では賠償額の予定の特約はない)(以下単に適正利息及び遅延損害金と略称する)は被控訴人主張の利息遅延損害金のうち年一割八分、同様に前記一(2)の貸金についての適正利息及び遅延損害金は、被控訴人主張の利息遅延損害金のうち年二割、前記一(3)の貸金についての適正利息及び遅延損害金は、被控訴人主張の利息遅延損害金のうち年一割八分である。この割合によつて前記一(1)の昭和三三年七月一日から同三五年一二月三一日までの利息及び遅延損害金を計算すると、金八二、三五〇円となる。同様に前記一(2)の昭和三三年一二月一日から同三五年一二月三一日までの利息及び遅延損害金は金二五、〇〇〇円、前記一(2)の昭和三四年一〇月三一日から同三五年一二月三一日までの利息及び遅延損害金は金二一、〇〇〇円となる。そうすれば、昭和三五年一二月三一日現在における利息遅延損害金の合計は金一二八、三五〇円であるから、三〇万円のうちから先ずこの合計額に充当すべきである(民法四九一条)。そうすれば、元金に充当すべく残る弁済金は一七一、六五〇円(300,000円-128,350円)となる。ところで、前記一(1)(2)(3)はいずれも既に弁済期に達したものであるが、うち(1)(3)は利率年一割八分であるのに、(2)は利率年二割であつて、利率が高いから、(2)は(1)(3)に較べて債務者のため弁済の利益が多いというべきである(同法四八九条二号)。そこで、次にこの(2)の元本に充当すると、弁済金のうちなお金一一、六五〇円(171,650円-60,000円)が残る。ところで、前記一(1)(3)については、前記のとおり、ともに弁済期にあつて、しかも利率は同一で、いずれを先に弁済しても債務者に何等の利益もないが、弁済期に前後があるから、弁済期の先に到来した債務に充当すべきである。従つて、前記一(1)の元本債務に充当すると、この元本のうち七一、三五〇円(183,000円-111,650円)が残る。そうすれば、控訴人は、前記一(1)の元本の残七一、三五〇円と一(3)の元本一〇万円及びこれ等に対する昭和三六年一月一日以降完済にいたるまで、年一割八分の遅延損害金を支払う義務がある。
三、そうすれば、被控訴人の本訴請求は右限度において正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。従つて、これと結論を異にする原判決は一部これを取消す。